4冊目『西国の戦国合戦』
バー(ブックス)はいつものようにマスターの英夫とアルバイトのさやが開店準備をしている。
「マスターは歴史がすごい好きなんですね」
さやが開店準備もひと段落ついたところで話を振ってきた。
「一番知識があるのが日本史なんだ。子供ころから好きでよく系図を眺めてたよ」
「ふーんそうなんですね。私は全然歴史なんかわかんないし面白いって思えないです」
さやは時折、マスターである秀夫にこう毒づくことがある。
もっとも秀夫はそういうさやだからこそこの店のアルバイトとして採用したのだ。
さやの飾らないところが秀夫は好みだったし、なによりもお客様に対しても受けが良い思ったからだ。
「この前、お客さんに貸してた『関東の戦国時代』でしたっけ? あれお客さんが返却した後、ちょっと読んでみようかなって思ってみて目次開いたらもう全然意味わかんない感じでこれは読めないなって思いましたもん」
「さやさん本のタイトルが間違ってるよ。『東国の戦国合戦』だよ」
「あ! そうでしたね」
さやはたいして悪いとは思っていないようだった。
「でも東国があるってことは西国があるってことですよね」
さやは閃いたかのように言った。
「そう。確かにこの戦争の日本史シリーズには『西国の戦国合戦』っていうタイトルの本があるよ」
そう言うと店の奥の方へと行ってしまった。
さやはめんどくさいことになったなと思った。
秀夫は明らかにその『西国の戦国合戦』という本を取りに行っているようだった。
さやはアルバイトとして接客をしているだけだから本紹介のことはよく知らないが、店の奥には本を多く保管している部屋があるとマスターが言ってたのを思い出した。
やがて本を持って秀夫が戻ってきた。
変な講義が始まるんじゃないかと心配になった。
「マスター。その本の話はしなくていいですよ。それにもうそろそろお店開ける時間です」
さやは先手を打ってそう言った。
そう言われた秀夫は時計を見て時間を確認した。
確かにもう開店の時間が迫っていた。
これで秀夫が諦めるかと思いきや、また店の奥に行ってしまった。
しばらくすると何か書いてある紙を持って秀夫が出てきた。
「マスター何ですか? それ」
「これね。せっかく取りにいったから本の紹介文を書いてきたんだよ」
秀夫は自慢気にそれをさやに見せた。
島津、毛利、長曾我部、各戦国大名が己の生き残りと勢力拡大目指してしのぎを削るそんな戦国大名たちもやがて豊臣政権に組み込まれていく
「なんか、わかったようなわかんないような紹介文ですね。この本はそんなにワクワクするような本なんですか?」
「さやさんにはわかんないかもしれないけどワクワクする本だよ」
「ふーん。そうなんですね。マスター店開けましょう」