2冊目『驚異の百科事典男』
「あなたに合ったお酒と本を提供します」
オレはこの看板を見てこの店に入ることに決めた。
店員に案内された席についてオレは早速注文をした。
すぐにお通しとお酒がきた。
お酒を一口飲むと表の看板について質問した。
「あの、看板にあなたに合ったお酒と本を提供しますって書いてあったんだけど」
マスターその言葉を聞いてすかさず「どんな本が好きですか?」と聞いてきた。
「うーん。あんまり本は読まないんだよな」
マスターを困らせてやろうと思いワザとこう言ってみた。
「なるほど。本をあんまり読まないのは時間がなかったりするからですか?」
「まあそういうこともあるけど、面倒なんだよね。あと知識をひけらかすヤツが嫌いっていうか」
ここまで言っちゃうとさすがにマスターもお手上げなのだろうか?
考え込んでいる様子だった。
やっぱりここまで言うと本なんか紹介出来ないよなと思った。
「わかりました。お客様にオススメの本があります」
難しい顔をしていたマスターがそういうと、奥へと行ってしまった。
数分後、マスターはある本をオレの目の前に置いた。
「『驚異の百科事典男』?」
「この本がオススメなんですか?」
オレは本を手に取ってみたが、文庫本ではあるがかなり分厚い。
こんな分厚い文庫本はいつだか読んだ東野圭吾の『白夜行』以来だ。
オレは思わず「こんな分厚い本は読めないですよ」と言った。
マスターはニヤリと笑みを浮かべて「全部読まなくても大丈夫です。この本はタダで貸し出しますので」と言った。
「この本はどういう内容なんですか」
「内容は世界一頭のいい人間になりたいと思った、自称元神童がブリタニカ百科事典をA~Zのアルファベット順番に読んでいく過程を日記に綴ったものです」
「だからこんなに分厚いんですか。それで何でこの本をオレに」
「お客様が知識をひけらかすヤツが嫌いとおっしゃっていたので」
「この本の著者はそういうヤツじゃないんですか?」
「いえ。そういう人ですね」
「え! じゃあ読みたくないな。そういうヤツ嫌いだし」
「だからこそ読んで欲しいんです。この著者はお客様が嫌いな知識をひけらかすヤツの固定観念を変えてくれます」
「ホントかな?」
オレは半信半疑だった。
「騙されたと思って読んでみてください」
オレはマスターが強く進めるものだから半信半疑ではあったけど借りてみることにした。