内向的な、あまりにも内向的な

内向的な性格な僕の思考

書評 6冊目 『蜜蜂と遠雷』

 

蜜蜂と遠雷

蜜蜂と遠雷

 

著者紹介

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)

恩田/陸
1964年、宮城県生まれ。92年『六番目の小夜子』でデビュー。2005年『夜のピクニック』で第26回吉川英治文学新人賞および第2回本屋大賞を受賞。06年『ユージニア』で第59回日本推理作家協会賞を受賞。07年『中庭の出来事』で第20回山本周五郎賞を受賞。著書多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

 

 あらすじ

内容紹介

俺はまだ、神に愛されているだろうか?

ピアノコンクールを舞台に、人間の才能と運命、そして音楽を描き切った青春群像小説。

著者渾身、文句なしの最高傑作!

3年ごとに開催される芳ヶ江国際ピアノコンクール。「ここを制した者は世界最高峰のS国際ピアノコンクールで優勝する」ジンクスがあり近年、覇者である新たな才能の出現は音楽界の事件となっていた。養蜂家の父とともに各地を転々とし自宅にピアノを持たない少年・風間塵15歳。かつて天才少女として国内外のジュニアコンクールを制覇しCDデビューもしながら13歳のときの母の突然の死去以来、長らくピアノが弾けなかった栄伝亜夜20歳。音大出身だが今は楽器店勤務のサラリーマンでコンクール年齢制限ギリギリの高島明石28歳。完璧な演奏技術と音楽性で優勝候補と目される名門ジュリアード音楽院マサル・C・レヴィ=アナトール19歳。彼ら以外にも数多の天才たちが繰り広げる競争という名の自らとの闘い。第1次から3次予選そして本選を勝ち抜き優勝するのは誰なのか?

 

初めに

 今回書評させて頂く本は『蜜蜂と遠雷』です。実は昨日の深夜回で本作原作の映画を観て来ました。映画の批評的なものについてはまた別に書きたいと思います。

 著者の恩田陸さんの小説は今作『蜜蜂と遠雷』とを含めて2冊読んでいて、一冊目は『夜のピクニック』でした。

ただ読んだのが相当前なため内容もおぼろげで恩田さんの作風とかも、どんなものかはもちろん語ることが出来ない程度にしか恩田作品には触れていないという感じになります。

 

クラッシック音楽に関わる者たちの群像劇

 『蜜蜂と遠雷』という小説にキャッチコピーを付けるなら、あらすじ紹介で引用したような青春群像小説とするのが商業的に正しいと思うのですが、この大著は若い人たちの群像小説という範囲を超えたもっと幅広い人々の群像小説という印象を受けました。

 なので僕はこの小説にキャッチコピーを付けるならクラッシック音楽に関わる者たちの群像劇と付けたいと思います。

 

多くの登場人物が出てくる

 主要登場人物はあらすじにもあるようにピアノコンクールに参加する男女4人でありますが、その他の登場人物の視点からも描いていてこのピアノコンクールという一つの舞台装置を臨場感あるものにしていると思います。

 具体的に言えば、このピアノコンクールの審査員の視点や裏方のピアノ調律師の視点などそれぞれの視点でピアノコンクールというものを語らせていて本作を読んでいるとまるで自分もこのピアノコンクールに参加している観ている気分になります。

 

小説で音楽を表現すること

 やっぱり本作を面白いと感じれるか感じれないかは本来、文章で表現することが難しい音楽という非言語表現をどのように説得力を持って表現出来ているかというところにあると思います。

 そしてそれは僕には説得力のある表現でした。何よりも本来メロディーとして表現するものを各演奏者がどのように表現しているかということを、その各演奏者のイメージを情景描写、比喩表現で現していることで読み手にそのメロディーを情景としてイメージさせています。

これは率直にいってすごいなと思いましたし、これは確かに映像化不可能というのもわかるし、そして何より著者が言うように『小説にしか出来ないことをやろうと思った』ということも頷けます。

 

規格外の天才、正統的な天才

 本作を読んで天才には2種類の天才がいるのではないかと思えました。それは規格外の天才と正統的な天才です。規格外の天才はありとあらゆる文脈から外れることが出来て一種の破壊者的な存在でもあるそんな天才です。

 本作ではそのような天才として風間塵という少年が出来て来ます。そしてもう一つの天才の型である正統的な天才というのは逆に文脈というのをよくわかっていて、それを上手くそして巧みに表現出来る天才です。本作ではマサルがそれに該当するのではないかと思います。

 

成長物語として

 そして本作の一つのキモは何と言ってもこのタイプの違う天才たちがお互いに高め合い成長していくさまがよく描かれ、その対比もよく描かれているというところにあると思います。

 この成長というところで言えば、本作の主要登場人物のひとりである栄伝亜矢の目覚しい成長が読みどころです。この栄伝亜矢という登場人物はあらすじにもあるように、ピアノ演奏にトラウマがあるという人物でそのトラウマの克服や自分の音楽性を取り戻していくということが一つのキモになっています。

 

最後に

 またまとまりのない書評になってしまいましたが、本作は本当にオススメですし、僕の中では今年ベスト3に入るのではないかという作品です。そして最後になりますが久々にもっと読んでいたい、この話が終わらないで欲しいと思える作品でした。恩田さんありがとうございました。そしてまた次の書評でお会いしましょう。