内向的な、あまりにも内向的な

内向的な性格な僕の思考

書評 5冊目『汚れた赤を恋と呼ぶんだ』

 

汚れた赤を恋と呼ぶんだ (新潮文庫nex)

汚れた赤を恋と呼ぶんだ (新潮文庫nex)

 

 著者紹介

 

tukasa131.hatenablog.com

 『いなくなれ、群青』書評参照

 

 

あらすじ

内容(「BOOK」データベースより)

七草は引き算の魔女を知っていますか―。夏休みの終わり、真辺由宇と運命的な再会を果たした僕は、彼女からのメールをきっかけに、魔女の噂を追い始める。高校生と、魔女?ありえない組み合わせは、しかし確かな実感を伴って、僕と真辺の関係を侵食していく。一方、その渦中に現れた謎の少女・安達。現実世界における事件の真相が、いま明かされる。心を穿つ青春ミステリ、第3弾。

 

今作の位置づけ

 前回の書評から少し日にちが経ってしまいましたが、階段島シリーズ第3弾を書評していきたいと思います。

 まずはこれまでの階段島シリーズを振り返りながら今作は今までのシリーズの中でどのような位置づけなのかを話していきたいと思います。

 

 第一弾の『いなくなれ、群青』は本シリーズの核となる階段島のなぞとその階段島になぜ人々が来てしまったのかということをメインテーマに据えた作品だと言えます。 

 個人的にはこの階段島のなぞがこの第一弾である程度判明してしまったのがどうなのかな?と思っていたのですがそれでも階段島という特殊な環境にも関わらず、それを受け入れて生活している者(主人公の一人、七草)と来たばかりでしかも納得できないことは絶対に納得しないし正しくないものは正しくないと絶対的な正義を振りかざす真辺由宇との対比で語られる物語はそれなりに面白く読めました。

 第二弾の『その白さえ嘘だとしても』は階段島の核となる真相が前作である程度明らかにされる中でどのように物語を引っ張っていくのかということが重要なかと思い読んでみましたが、やっぱり物語としてちょっと弱いなという印象を受けました。

 ただ多視点で語られる物語は前作の『いなくなれ、群青』で紹介程度に出てきた登場人物たちの背景や考えを知れるという意味で群像劇としての機能を持っていたと思います。

 そんな第一弾、第二弾を踏まえて今作の位置づけを語るとするなら今作は第二弾の続きというよりも第一弾では語られなかった部分と第一弾、第二弾で進行している階段島の時間の流れとは別に進行してる現実世界での時間の流れが語られているという感じになります。

 

現実世界と階段島の世界

 先ほども述べたように第一弾、第二弾では階段島での時間軸で話が展開されていました。その中で本作は現実世界での時間軸で話が展開されるので、シリーズがもともと持っていた平行世界感が今作でより鮮明になっていると思います。

 平行世界なので現実世界と階段島の世界と同じ人物がふたりいることになります。そして今作は現実世界を中心に描いているので、より元々同じ人格だった者がそれぞれの世界で生活する中で受ける変化をどう描いていくのか違いをどう出していくのかというところがポイントになってくるのではないかと思います。

 ただしこの階段島シリーズのコンセプトとして別世界(階段島)のもうひとりの自分はただのもうひとりの自分ではないという点を考えるとよりその部分を上手く表現出来ているのかというふうにハードルが上がっていきます。

 ではその点でどうだったのかというとこれはもうネタバレに等しいのでぼかして言いますが、正直そんなに違いが感じられなかったかなという気がしました。

 この辺はネタバレになるのでちょっと具体的には言えないのですが、現実世界の七草も階段島世界の七草もそこまで性格に違いがあるようには思えなかったのです。まあこの辺は感覚の違いが大きいと思いますが……。

 

今作のキーマン安達

 今作から安達という人物が登場します。この安達という人物はなかなかつかみどころのない人物でたぶん今まで出てきた登場人物の中で一番、ぼやけた人物像だと思います。ただ階段島シリーズが後半に差し掛かる中で、こういう謎な人物が出てくることは

物語を引っ張っていく力になるのでなかなかいいと思います。そしてこの安達という人物は今作の中でも七草をかき乱す存在として活躍をしていてラストシーンを読むと後半の階段島シリーズでも活躍が期待できる人物です。

 

今作の主題は……

 階段島シリーズの特徴としてプロローグにそれぞれの作品が今回はどういう話を展開するのかということを述べていくということがあるのですが、今作のプロローグを読むと現実世界の七草が、思春期の過程で起こる変化に対してそれを受け入れていくという話だと思いました。

 子供の頃の純粋さというものを子供の頃のまま持つことは出来ず、だれもがどこかでその純粋さを捨てていくという過程を経ていくと思います。

 それを喪失と見るか新たな出発と見るかで違いがあるかもしれませんが、でも変化しているそのままではいられないということを今作では描いているのではないかと思います。

 

最後に

いつもなんだかまとまりのない書評を(書評と言っていいかも怪しいですが)してしまっていますが、他の人の書評なんかも参考にしながら書評のレベルを上げていきたいと思っています。

また今作では第一弾、第二弾で出てきたあの人が現実世界でも登場するのでそこもチャックして頂くと面白いかと思います。

ではまた6冊目でお会いしましょう。