内向的な、あまりにも内向的な

内向的な性格な僕の思考

書評 4冊目 『その白さえ嘘だとしても』

 

その白さえ嘘だとしても (新潮文庫nex)

その白さえ嘘だとしても (新潮文庫nex)

 

 著者紹介

『いなくなれ、群青』書評を参照

 

tukasa131.hatenablog.com

 

あらすじ

内容(「BOOK」データベースより)

クリスマスを目前に控えた階段島を事件が襲う。インターネット通販が使えない―。物資を外部に依存する島のライフラインは、ある日突然、遮断された。犯人とされるハッカーを追う真辺由宇。後輩女子のためにヴァイオリンの弦を探す佐々岡。島の七不思議に巻き込まれる水谷。そしてイヴ、各々の物語が交差するとき、七草は階段島最大の謎と対峙する。心を穿つ青春ミステリ、第2弾。

 

『いなくなれ、群青』の補足書評

 階段島シリーズがシリーズとしてどのような構造なのかわからなかった中で書評した『いなくなれ、群青』に関して今回書評する階段島シリーズ第二弾を読んだ上であらためて補足の書評を付け加えます。

 

 まずこの階段島シリーズというものはそれぞれの話に連続性があり、それこそどれから読んでもよい東野圭吾ガリレオシリーズとは違いシリーズ全体としてどうかというところを評価しないといけないということです。

 

 その観点から『いなくなれ、群青』を評するとやはりシリーズ第一弾としての話の引きの強さ、読ませる話作りというところがどうしても弱い印象を受けました。

 

 捨てられた人々の島としての階段島という設定そのものはとても良いのですが、捨てられた人々がわりとそのことを簡単に受け入れて生活しているという印象を受けたため、その設定に切迫感というものが感じられない話になってしまったのかなという印象を受けました。

 

切迫感のなさがもったいない

 

 そしてこの切迫感の感じられなさという点が今回の『その白さえ嘘だとしても』にも見られる点かなと思います。あらすじにも書いてありますが、今回の話(ハッカーによってインターネットが使用出来なくなり物流の危うさが露呈するというくだり)は本来であれば階段島という設定そのものが持つ危うさによって、そこで生活している人々の生活が脅かされるという話になると思うのですが、なぜかあまりこの話を掘り下げることなく違う話(正直、どうでもいいと思ってしまうような)がメインになってしまってこれは残念かなと思いました。

 

 そのためこの第二弾も階段島という設定があまり活かされていないという結果になってしまっています。

 

多視点という構造

 

 今回の第二弾は前回が七草の視点だけで物語られていたのに対して前回は紹介程度の扱いだったサブキャラの視点からも物語られ多視点の構造をとっています。その点は良かったなと思います。前回出てきたキャラからも七草や真辺由宇の印象を語らせることでこのふたりの主人公の人間性を客観的に把握することが出来たし、それそれのサブキャラも前回より掘り下げられています。

 

七草という存在

 

 今回の話はあるサブキャラがメインになっている話ではあるのですが、そのことは正直どうでもよくて(先ほど述べた正直どうでもいい話に関わるキャラ)やはり前回の主人公で今回の主人公のひとりである七草という人物の印象が前回と違ってみえるというところが印象に残りました。

 

 前回では七草という登場人物は階段島の生活を受け入れていて、新しくこの島に来た真辺由宇がこの島の生活にもたらす変化を嫌い変化を好まない受け身な人物という印象でしたが今回はその印象が変わります。

 

 今回の話で七草に受けた印象は受け身な人物に見えて実は策士というものでした。この七草という主人公の印象の変化は冒頭で言及したような読ませるなにを辛うじて保っていると思います、

 

階段島シリーズは七草を語るのか?

 

 2作読み終えて言えることはこの階段島シリーズは一見すると階段島という設定や真辺由宇という存在に引っ張られる感がありますが、実はこのシリーズ全体を通して七草という登場人物の変化や人間性を描く作品なのではないかということです。この読みが当たっているかどうかは続く残りシリーズ4作を読んだ上でまた言及します。