21冊目『人間そっくり』〜もしも火星人と名乗る男が現れたら
自分は火星人だと名乗る人物がやってきたらどうするだろうか?
おそらくどんな人もそんなことを言う人が現れたとしても信じないだろう。
この小説はそんあありえない設定から話を始めるがそこで問われているのは人間そのものの実在性だ。
そんなもの当たり前じゃないか。自分が存在していることは間違いないし人間が存在していることも間違いない。
そう思うのが普通なのだが、その当たり前を火星人と名乗る男を登場させることによって疑わせる。
その男は自らを火星人と名乗る。
当然、主人公もそんな馬鹿なと疑う。
しかし火星人と名乗る男と話している内にしまいには自分のことさえもわからなくなる。
このわけのわからなさ、奇妙な世界感こそが安部文学のすごさだと思う。